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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)4993号 判決 1998年7月24日

原告

砂川文江

被告

古賀隆洋

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金一三〇万八六六七円及びこれに対する平成六年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金一一七七万四四八三円及びこれに対する平成六年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成六年五月二六日午後七時三〇分ころ

(二)  場所 大阪府八尾市東本町三丁目五番先の交差点(以下「本件交差点」という。)

(三)  加害車両 被告古賀隆洋(以下「被告古賀」という。)運転の普通貨物自動車(大阪四一す四〇〇五)

(四)  態様 被告古賀は、加害車両を運転して、信号機により交通整理の行われている変形五又路の本件交差点において、北から西へと右折しようとした際、南から北に向けて足踏式自転車にて横断中の原告に対し、加害車両を衝突させた。

2(責任)

(一)  被告古賀の責任

民法七〇九条

(二)  被告奥田昌久の責任

民法七一五条、自動車損害賠償保障法三条

3(傷害、治療経過、後遺障害)

(一)  原告は、本件事故により 頭部外傷Ⅱ型、脳浮腫、頸部捻挫等の傷害を負い、次のとおり 入通院治療を受けた。

(1) 八尾英和会病院

平成六年五月二六日から同年六月二六日まで入院三二日間

平成六年六月二七日から平成七年四月一〇日まで通院(実通院日数一四二日)

(2) 大阪市立大学附属病院

平成七年九月五日から平成八年四月二三日まで通院(実通院日数一二日)

(二)  原告は、本件事故により、嗅覚脱失症、肩関節機能障害の後遺障害を負った。

なお、原告は、本件事故当時食品会社である株式会社フレンドフーズで稼働していたが、嗅覚の脱失により、職を失った。

食品製造の仕事において嗅覚は必要不可欠のものであり、これを失った原告は、食品製造の仕事に就くことができなくなってしまったのである。

4(損害)

(一)  治療費 四一万四六六〇円

(二)  入院雑費 四万一六〇〇円

1300円×32日=4万1600円

(三)  通院交通費 六万三二〇〇円

(四)  文書料 五一五〇円

(五)  休業損害 二八九万三四四〇円

休業期間 三二〇日

基礎収入日額 九〇四二円(平成六年度賃金センサス女子労働者平均賃金)

原告は、知能障害を有する二男を抱えながら生活しているものであり、二男の介護のため、自宅近くで、しかもパートタイムでの仕事にしか就けないという事情がある。

かかる事情がなければ、賃金センサスの平均賃金以上の収入を得られる職に就いていたものと考えられる。

したがって、賃金センサスによって損害額を算定することに何らの不合理もない。

(六)  傷害慰謝料 二四〇万円

(七)  後遺障害慰謝料 二三〇万円

後遺障害等級一二級

(八)  逸失利益 四二五万七九七五円

330万0500円×0.14×9.215=425万7975円

(九)  弁護士費用 一一〇万円

よって、原告は被告らに対し、民法七〇九条、七一五条及び自動車損害賠償保障法三条による損害賠償として、各自、既払の一七〇万一五四二円を控除した残額金一一七七万四四八三円及びこれに対する本件事故の日である平成六年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3(一)は認める。

同3(二)は争う。

肩関節機能障害は、自賠責保険事前認定手続において、CT、MRI、X―P上異常所見は認められず、神経学的にも医学上異常とされる所見はないとして非該当になっているし、嗅覚脱失については、一度は非該当とされ、異議申立の結果ようやく一二級相当との認定を受けたものであるが、自訴が主体であって、MRI上の異常所見も認められておらず、その発症については懐疑的である。

4  同4は争う。

(一) 休業損害

休業損害については、賃金センサスを採用する根拠がない。すなわち、本件事故当時、原告は株式会社フレンドフーズに勤務し、本件事故前三か月の給与の平均日額は三七四六円であるから、休業損害の計算は、これによるべきである。

三  抗弁

1(過失相殺)

(一)  本件事故現場である近鉄八尾駅南交差点は、交差点内全域がスクランブルゾーンとされており、このスクランブルゾーンを行き来する歩行者あるいは自転車は、全方位が信号表示を同じくする歩行者用信号機によって交通規制されている。

これに対し、本件交差点を通行する車両は車両用信号機によって交通規制されている。

そして、歩行者用信号と車両用信号が同一の信号表示をすることはない。

(二)  被告古賀は、加害車両を運転して北から本件交差点に接近し、南北車両用信号表示が青色のとき交差点内に進入し、西に右折すべく右折レーンで一旦対向車の通過待ちをした。

(三)  被告古賀は、対向車が途切れたことから、右折発進して交差点を通過しようとしたところ、前方スクランブルゾーン上(スクランブルゾーン外側〔西側〕の可能性もある。)を北から南に漫然自転車に乗って進行中の原告を発見し、急制動するも及ばず衝突に至った。

(四)  本件事故発生時、南北車両用信号は青色、全方位歩行者用信号は赤色をそれぞれ表示していたにもかかわらず、原告は漫然とスクランブルゾーン内に足踏式自転車を乗り入れた車両の走行を妨害したものであり、その過失は重大である。

(五)  よって、大幅な過失相殺がなされるべきである。

2(損害填補) 一七〇万一五四二円

原告は被告奥田から、損害賠償として一七〇万一五四二円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

(一) 本件事故は、横断歩道上を足踏式自転車で直進中の原告と右折しようとした加害車両との事故であり、交差点を右折しようとする自動車運転者は、通過しようとする横断歩道上に自転車等横断中の者がいないか確認し、横断中の者を確認した場合には速やかに停止するか徐行するなどして、横断者の安全に配慮すべき業務上の注意義務があるのに、被告古賀は右注意義務を怠り、横断歩道に漫然と進入したため本件事故を発生させたものであるから、被告古賀には、前方不注視及び停止、徐行義務違反の過失がある。

(二) 原告は、本件事故現場である横断歩道を北から南に向けて歩行者用信号の青色表示に従い、足踏式自転車にて横断中、加害車両に側面から衝突されたものであり、決して歩行者用信号を無視して横断歩道を横断していたものではない。

(三) 仮に、本件横断歩道がスクランブルゾーンで、歩行者用信号と車両用信号が同一の信号表示をすることがないとしても、被告古賀は、北から交差点内に進入し、西に右折すべく右折レーンで対向車の通過待ちをしていたのであるから、たとえ南北車両用信号表示が青色のときに交差点内に進入していたとしても、対向車両の通過待ちの間に車両用信号表示が赤色に変わり、歩行者用信号表示が青色に変わることも十分にあり得ることであるから、本件横断歩道がスクランブルゾーンであることのみを捉えて、原告が歩行者用信号が赤色表示であるときに横断歩道を足踏式自転車にて横断していたとは言えない。

2  同2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(傷害、治療経過、後遺障害)

1  原告が、本件事故により 頭部外傷Ⅱ型、脳浮腫、頸部捻挫等の傷害を負い、次のとおり 入通院治療を受けたことは当事者間に争いがない。

(一)  八尾英和会病院

平成六年五月二六日から同年六月二六日まで入院三二日間

平成六年六月二七日から平成七年四月一〇日まで通院(実通院日数一四二日)

(二)  大阪市立大学附属病院

平成七年九月五日から平成八年四月二三日まで通院(実通院日数一二日)

2  証拠(甲三の1ないし3、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告の本件事故による傷害は、平成八年四月二三日、症状固定し、嗅覚脱失の後遺障害が残った。

なお、原告は、右肩関節痛を訴え、健側の左肩関節に比べ右肩関節についての運動制限が見られる(これについての症状固定は、平成七年四月一〇日)。

(二)  原告の後遺障害について、自動車保険料率算定会は、平成八年七月一一日、後遺障害等級一二級相当と認定した。

三  請求原因4(損害)

1  治療費 四一万四六六〇円

証拠(甲四の1ないし13、五の1ないし7、原告本人)によれば、原告の本件事故による負傷治療のため、次の治療費を要したことが認められる。

(一)  八尾英和会病院 三三万〇四九〇円

(二)  大阪市立大学医学部附属病院 八万四一七〇円

2  入院雑費 四万一六〇〇円

入院雑費は一日一三〇〇円とするのが相当で、入院期間は前記のとおり三二日間であるから、この間の入院雑費は四万一六〇〇円となる。

3  通院交通費 六万三二〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告の本件事故による負傷治療のための通院交通費として六万三二〇〇円を要したことが認められる。

4  文書料

右損害については、これを認めるに足りる証拠が全くない。

5  休業損害 二五三万七一八四円

証拠(乙二の1、2、原告本人)によれば、原告(昭和一三年三月二一日生)は、平成三年四月七日から株式会社フレンドフーズに勤務し、平成五年分の給与所得は年額一八九万六三〇二円であったこと、原告の二男には知的障害があり原告が介護していること、そのため右会社に夜間(午前〇時から午前六時まで)勤務していたことが認められる(原告は本件事故により結局右会社を退職した。)。

右の事実によれば、原告の休業損害算定の基礎収入としては、平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者五五歳から五九歳までの年間給与額三三〇万〇五〇〇円(日額九〇四二円)(一円未満切り捨て。以下同じ。)によるのが相当である。

そこで右により原告の休業損害を算定することとし、前記認定の原告の負傷の部位、程度、後遺障害の部位、程度からすると、入院治療中の平成六年五月二六日から同年六月二六日までの三二日間は、右全額の、平成六年六月二七日(退院日の翌日)から平成七年四月一〇日(整形外科における症状固定日)までの二八八日間はその六割の、その翌日から平成八年四月二三日までの三七九日間はその二割の休業損害が発生したものとするのが相当であるから、右に従い原告の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、二五三万七一八四円となる。

9042円×32日=28万9344円

9042円×0.6×288日≒156万2457円

9042円×0.2×379日≒68万5383円

28万9344円+156万2457円+68万5383円=253万7184円

6  傷害慰謝料 一六〇万円

前記のとおりの原告の傷害の部位、程度及び入通院治療状況等からすると、原告の傷害慰謝料は一六〇万円と認めるのが相当である。

7  後遺障害慰謝料 二三〇万円

前記認定の原告の後遺障害の内容からすると、原告の後遺障害慰謝料は二三〇万円と認めるのが相当である。

8  逸失利益 二五七万七三八九円

前記認定の原告の後遺障害の内容及び生活状況からすると、原告は症状固定日(平成八年四月二三日)(満五八歳)以降一一年間就労可能であり、その間一〇パーセントの割合で労働能力を喪失したと認めるべきであるから、ホフマン式計算法により原告の逸失利益の本件事故時の現価を計算すると、次の計算式のとおり、二五七万七三八九円となる。

330万0500円×0.1×8.590≒283万5129円

283万5129円×1/(1+2×0.05)≒257万7389円

9  以上を合計すると九五三万四〇三三円となる。

四  抗弁1(過失相殺)

証拠(乙一の1ないし4、三、六の1ないし11、原告本人、被告古賀本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件交差点(近鉄八尾駅南交差点)の状況は、別紙現場見取図記載のとおりであり、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)の本件交差点北側は、北行き車線が一車線(幅員五・九メートル)、南行き車線は二車線(うち一車線は右折専用車線。幅員五・八メートル)であり、本件交差点の北側に南西方向から片側一車線(幅員各三・八メートル)の道路(以下「本件交差道路」という。)が接続し、その南側に南西方向への一方通行道路、北東方向への一方通行道路が接続する変形の五叉路の信号機により交通整理の行われている交差点である。

本件交差点内はスクランブルゾーンとされており、本件交差点を通行する歩行者、自転車は、全方位が信号表示を同じくする歩行者用信号機によって交通規制され、本件交差点を通行する車両は車両用信号機によって交通規制されている。

南北道路の車両用信号機と歩行者用信号機の表示サイクルは、全赤四秒の後車両用信号機の青色表示五七秒、続いて黄色表示四秒(この間の六一秒は歩行者用信号機は赤色表示)の後赤色表示五五秒(この間歩行者用信号機は青色表示三〇秒、青色点滅四秒、赤色表示二一秒で表示される。)の一二〇秒サイクルである。

2  本件事故当時の天候は雨であった。

3  被告古賀は、加害車両を運転して東西道路を北から南に向かい対面の車両用信号機の青色表示に従い、本件交差点に進入し、本件交差道路へ右折するために、別紙現場見取図の<1>地点(以下地点を示すときは同図面による。)で対向車両の通過待ちのために停止し(このとき<甲>地点に信号待ちの車両が停止していた。)、数台の対向車の通過を待った後、対向車の間隔があいたので時速一五キロメートル程度で右折進行を開始し(その時の対面の車両用信号機は青色表示であった。)、<2>地点付近で、進路前方を右から左(北から南)へ横断している原告乗車の足踏式自転車を至近距離(約二・五メートル)に発見し、急制動の措置を取ったが間に合わず、<×>地点(加害車両進行車線の中央付近)付近で加害車両と右自転車が衝突した。

4  原告は、足踏式自転車に乗り、南北道路の西側に設置されている歩道上を北から南に向かい進行し、交差道路を北から南に向かい横断している際、加害車両と<×>地点付近で衝突した。

原告が横断を開始した時点における歩行者用信号機の表示は赤色であった。右の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

なお、原告の警察官に対する供述調書(乙一の4)中には、原告は本件交差点の対面信号機青色にしたがって横断を開始した旨の記載があり、原告本人尋問の結果中にも同様の供述部分があるが、これに反する被告古賀本人尋問の結果は、捜査段階の供述(乙一の3)から一貫しており、その内容も具体的で不自然な点は見当たらず、信用することができるのに対し、原告本人尋問の結果中には、原告が横断を開始するに当たり、交差道路の信号待ち車両の有無、南北道路の本件道路南側の車両の有無等については全く注意を払っていなかったこと、本件交差点内の歩行者はいなかったが、本件交差点東側の近鉄八尾駅商店街の前の歩道当たりに二、三人の歩行者がいるのを見た旨の供述部分があり、原告本人の歩行者用信号機は青色表示であった旨の供述部分は採用できない。

右認定の事実によれば、本件事故の発生の原因の大半は原告の信号機の赤色表示違反にあるというべきであるが、被告古賀にも進路前方に対する注視義務違反の過失があるから、右過失を考慮し、本件については、原告の損害額からその七割を過失相殺するのが相当である。

したがって、前記九五三万四〇三三円からその七割を控除すると、二八六万〇二〇九円となる。

五  抗弁2(損害填補)(一七〇万一五四二円の支払)は当事者間に争いがないから、前記損害額二八六万〇二〇九円から一七〇万一五四二円を控除すると、一一五万八六六七円となる。

六  弁護士費用(請求原因4(九))

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一五万円と認めるのが相当である。

七  よって、原告の請求は、金一三〇万八六六七円及びこれに対する本件事故の日である平成六年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判快する。

(裁判官 吉波佳希)

現場見取図

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